≪戻る

課題・事象型視察内容

中国の花き生産概観
上海・杭州の鉢物・切花・緑花き生産 「第7回中国花卉園芸資材見本市」 花卉市場

※画像をクリックすると拡大写真が別ウィンドウで表示されます。

高速道路緑化  急速に進展する高速道路と緑化。花卉栽培面積1位の観賞苗木生産の背景にある実需先。 合弁企業の温室 合弁企業の大規模リッシェルハウス:フランス産。オランダのフェンロータイプ温室と併せ多い。 カーネーションの苗生産(合企) カーネーションの苗生産。中国国内外に販売している(上海の合弁企業)。 カーネーションの栽培(合企)中国カーネーション輸出の20%弱を占めるという上海での一合弁企業の栽培。ボリューム・スプレー種のフォームに難を感じた。 カーネーションの出荷前予措(合企)全量日本向け輸出というカーネーションの水揚げ処理(上海の合弁企業)。
輸出箱詰直前のカーネーション(合企) 輸出箱詰直前のカーネーションの荷姿(上海の合弁企業)。 シクラメンの育種採種(合企) シクラメンを100万鉢/年間生産し、昨年日本向けに成品出荷した巨大合弁企業の一基地での育種、採種。 シクラメン苗輸出(合企)シクラメン苗の国内外への輸出用箱詰作業(合弁企業)。 シクラメン輸出苗(合企)シクラメンの輸出苗と荷姿(合弁企業)。 緑化木生産(合企) 緑化木生産は旺盛な道路植栽向け実需が相手。紅カナメモチの挿し木繁殖。
観葉のハイドロ水耕(合企)日本向け観葉シンゴジウム、パキラ等のハイドロボール水耕栽培による小鉢生産(合弁企業)。 花壇苗の育苗(合企) 花壇苗の大規模育苗(合弁企業)。 観葉鉢物生産(合企) 観葉鉢物生産。エブアンドフローシステム等最新の設備を完備している(合弁企業)。

キク神馬の栽培(集団基地)全量日本向けの2万坪の集団基地。青雲、神馬の生産で損益分岐は17円/本と言う.。

国外投資による企業経営 国外からの民間投資を受け入れ企業経営をしている若い女性経営者の住宅と圃場のほぼ全景。
国外投資企業のヘデラ生産 前述の投資受け入れ経営のヘデラ生産。施設の規模、装備内容、経営形態はほぼ県内の上位から大型経営体に相当。 農家の栽培施設 一般農家が近隣農家の借地権を借りパイプハウスで花き栽培。 農家のバラ栽培 一般農家の前述ハウスでのバラの栽培。施設も含め長野県の昭和40年代初期の状況か? 中国花卉園芸資材見本市 中国花卉園芸資材見本市は国内イベントとしては1、2を競う規模とされる。ここはランの集団公司のブース。企業は合弁でもあるためかオランダや国内の展示会に引けをとらない。 上海花市場   上海花市場は相対取引市場。取引姿も価格も多様で国内産カーネーションは20本/束で3〜4元、台湾産で12元、白輪ギク10本/束で4元前後であった。

※画像をクリックすると拡大写真が別ウィンドウで表示されます。

■増大する輸入に対応を考える

中国の花事情ー増大する中国からの花き輸入:現地の実態と対応を探るー(長野県版)

  カーネーション産業第3の崩壊事例になるのか?から始まる

最近中国を始め、アジア諸国からの国内への切花輸入が急増している。

とりわけ長野県花き産業の中で生産額が最大の品目であるカーネーションは国際商品となって久しく、産地の国際化が進む中、中国から日本への輸出が急増し危機を感じている生産者がほとんどである。

これは強大だったアメリカのカーネーション産業が1970年代後半から80年代始めにかけて南米コロンビアの熱帯高地に始まった栽培輸出により数年の内に崩壊、切花産業も衰退、鉢物・花壇苗にシフトしたこと。

 その後、世界をリードしていたオランダのカーネーションも1980年代後半から90年代に入り南ヨーロッパ等からの輸出により、栽培面積は最盛期の1/10以下の40ha内外に減少し、崩壊したといって良い事例がを見てきているからである。

しかし、オランダの場合はこれを乗り越え切花産業も健在である。

 カーネーション以外の輸入品目でも船便による大量輸送を前提にした白輪ギクへの危惧感や昨年話題となったシクラメン他の鉢物等にも関心が高まっている。

このことから中国の花き生産の現状を正確に把握し、対応の視点を確実なものにしておく必要に迫られていた。その矢先、国内で中国事情に詳しい米村花きコンサルタント事務所から視察のお誘いを受け、4月上旬上海、杭州の実態を見る機会を得た。今回、実情から対応までを考察する場を与えられたので言及して見たい。

 ☆ 中国花き産業の概観

 視察先から提供された資料、2003年度中国花卉産業データからの引用である。

 まず、中国と日本の花卉産業の比較であるが、栽培面積は日本の約18.5倍(分類を精査し、国内栽培面積を約4.3万haとすると約9倍)の43万ha、売上高は353億元で換算すると日本とほぼ同額、輸出額は約一億USドル弱である。日本は栽培面積、売上高とも微減なのに対し、中国は前年比120%台の伸びをしている。

類型別に見た花卉生産販売概要は表1のとおりで、観賞苗木が栽培面積、売上高とも圧倒的に多い。これは「花卉園芸は大衆のものでなければならい」という思想に基づく公共緑化や高速道路の急伸に伴う緑化用がほとんどと聞いた。

鮮切花(切花)と鉢花はほぼ同面積、同売上高であるが鮮切花の輸出高は多い。

主な花卉品目(Crop)は栽培面積ではキク、バラ、カーネーション、グラジオラスの順でこの4品目で全体の80%を占める(表2)。

花卉生産施設は総面積で約29000haで切り花用約12000ha、盆栽植物用約17000haである。国内の総面積に比べ約3倍と言える。生産経営実態は花卉市場箇所約2000、花卉企業数約60000社、内大中企業約5000社、農家数約95万戸、関係技術者約97000名とされる。

花卉産業の栽培面積の推移は2000年を100とすると2003年は鮮切花で251%、鮮切葉で373%、鉢物で256%、観葉植物218%、観賞苗木355%でいずれも著しい伸びをしている。

☆ 輸出の担い手は企業が主体― 広い中国で必ずしもこうとは言い切れないが現地実態から見えたもの

1 経営形態による生産性差が著しく、輸出の担い手は企業生産

 国との合弁企業の栽培はグラビアに見るように高能率、高生産性施設が積極的に導入されている。しかし、成品の品質は品目により異なったが国内のものと遜色のないものからやや劣るものまでが見られ、発展段階にあることが認識できた。

日本への花き輸出はアジア全域あるいは世界各地からのターゲットになっている。 

外貨獲得の輸出政策を背景に、これらの競合にも勝てる施設、技術を充実しての高能率、

高品質生産態勢作りを前提に進められている。これらは県内の大型花き栽培農家には見られない経営規模、高度施設であり、背景にある安価な労力事情を除外しても脅威である。

民間企業の栽培も一戸視察できた。アメリカからの投資を受けた若手女性経営者による観葉鉢物中心の栽培であった(グラビア参照)。成品の品質も良く、独自の品種を持ち販売戦略にしていた。ここの企業も日本向け輸出をしている。従って、民間や集団も含めこの階層までの企業が日本への輸出を担っているものと推測された。

2 中国の国内生産・消費を取り巻く関連基盤は生産優位? 

中国国内消費性向 キク集団基地に働くパートさんの日給は換算300円とのこと。一方、オランダからのパテント苗を使って栽培したアンスリューム5号鉢の販売単価が換算400円余とのことから消費を懸念する声もあるが、識者は、パート労働者は内陸部から来ており、沿海部は給与水準が高く、花き需要は無限との見方をしている。

☆ 品目別の栽培・輸入環境と長野県への影響

1 カーネーション 中国のカーネーションは図1、のように数年で3000haと国内の約6.5倍の面積まで急伸した。

輸出は表3に見られるように、日本での輸入主要国の中では伸び率が顕著で年毎に倍々の驚異的増加をし、2004年の昨年はコロンビアに次いで2番目となり輸入総本数の26%強を占める。

更に本年は視察時に3月末時点で既に前年の3800万本弱を超え、本年末の予測は7500〜8000万本になるとの見通しを語った。

ちなみに長野県は日本国内カーネーションのほぼ1/4をを生産しており2003年生産本数は約1.1億本であるが、2004年輸入総本数の約1.4億本よりも少ない。

中国輸出の20%を占めると言う上海市の合弁企業の1農場、4haの栽培基地を視察した。品質には温度不足を感じ、電力・燃料等社会基盤上からの制約の影響を推測させた。

 品質面での課題は抱えるが、月別の輸入本数の状況は図2、のように周年に亘っており、県内への影響は避けられない。この脅威に植物特許が守られず増産されている側面があることから、種苗関連会社を中心に苗のパテント料を支払わない輸出切り花1本に対し、1円のロイヤリティーを徴収する取り組みに入っている。公正な競争と共にこのロイヤリティーレベルの調整や品種の住み分けにより日本農家の保護が図れるとの見方もあるが、関係者の中には疑問視する声も多い。

2キク 中国のキクは図3、のように年率で順調な伸びを示し、2001年から2003年まで栽培面積は毎年1000haの驚異的な増加をし、5000haを超えた。国内の約6000haにほぼ近い。

財務省統計による2004年の中国産の国内輸入量は図4のようにマレーシア、韓国についで3番目で、総量の約15%を占め、2002年対比実に374%のやはり著しい伸びをしている。

マレーシア産がスプレー菊等の色ギクであるのし対し、白菊主体で業務用需要輸出にねらいを定めている。月別の輸入量は図5ように周年に亘るが7月から年末までは右肩上がりで多く、今後影響が大きくなると予想される。

3その他 バラは中国国内の生産は4000haとキクについで2番目であるが、日本国内での輸入量は2004年ダントツの韓国等々後の8番目でシェアーは1%、2002年対比伸び率は202%であり大きいがまだ影響は少ないので割愛する。

シクラメン 昨年中国の2箇所から日本向けに成品輸出されたと言う中の1箇所を今回視察できた。上海から日本国内市場まで2週間を要したため品質が劣化し、成果が上がらなかった反省から、改善に燃えている。

 

☆ 対応を考えるーオランダの先例に学ぶー

カーネーションは崩壊したが花き産業は輸入に対峙している先例オランダに学ぶべきことが多い。

オランダは経営面ではケニア等のオランダへの輸出地に自らの生産基地をつくり、自社生産を行うと同時に国内、世界に向け販売を行う手法をとっている。育種も同様で選抜地を多様化している。一方、生花、鉢物の販売は既存の近隣国に加え、特に東欧・ロシア圏を中心に世界への輸出販売を拡大している。

生産規模の拡大はラボバンクによる2004年から2010年の予測でも1ha以下層の大幅な減少と5ha以上層の大幅な増加を見込む等進展している。

生産面ではカーネーションを指してオールドフラワーと言わせる栽培品目の転換、品種品目開発等、また人が動かず栽培床が動いてくるモバイルシステム等に見られる省力化、労働力を有効に計画的に利用するための開花調節技術の確立、等が進展している。環境負荷軽減のための技術も世界に先んじている。

しかし、長野県も含め国内生産態勢はオランダに比べ経営、生産面のいずれの事項も進展がないか遅遅としている。また流通面からは「輸入の持つ安定予定価格・安定入手量の機能」を国内生産流通体制内に構築することで対抗できるとする意見もある。短期から長期的視点に分けて対応を早めるべきである。

当面する県内の局面としてはカーネーションの対応が課題になる。正確な関連情報の収集と交換・提供、生態反応を最高度に発揮させるオランダを凌駕するような革新的栽培技術やモバイルシステムも含めた低コスト生産技術の開発、消費者ニーズ開発・生産性向上のための育種、経営分析と転換品目の検討準備及び試行等の経営・技術面の対応と愛知県のキクの一部で実施しているような数ヶ月先の販売予約取引等の新しい流通対応を模索すべきである。当面の改善目標は小売店さんの中国産カーネーションの仕入れ値40円/本内外の現況を念頭に置いての対応が必要となろう。

(長野県農業改良協会 「農業と生活」誌 2005年11月号掲載原稿に加筆)

*問い合わせ→E-mail